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"Palmless Prayer / Mass Murder Refrain"
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wegの物語作家としての手腕と、MONOのいっそう研磨された演奏力とが、ひとつの意志のもとに見事に融合したのが本作だ。全1曲、5つのパートからなる、約74分の壮大な組曲である。
双方がネクスト・レヴェルへと踏み込んだ作品であることは間違いない。そしてこれは、あまりに希有な、真摯で、人間的な音の物語である。
MONOとworld’s end girlfriend(以下weg)。MONOはノイジーなギターを中心に、シェラックに通じるような硬質かつ繊細な音を描く4ピース・ロック・バンド、一方のwegはエレクトロニクスから弦楽器までを自在に操って自らの脳内宇宙を表現する、新世代のシンガーソングライター。それぞれ音楽性も形態も異なるが、インストゥルメンタルで言葉以上に雄弁な表現力を持っていること、独自のスタイルを追求していること、それに海外での評価が高いことなど、両者の共通項は少なくない。本作はその彼らによるコラボレーション・アルバムである。お互いにとって初のコラボ作品だ。
両者の出会いは約2年前、MONOのライヴにwegがゲストで参加した時だという。 wegはMONOの中心人物であるTakaakira“Taka”Gotoに対して「なにか共通するものを感じてて。MONOの世界観も、俺が根本に持っているものとすごく近いものを感じた」(以下、発言はすべてwegによるもの)そうで、コラボはごく自然の流れの中で実現したようだ。いわば彼らは、お互いに最も深い部分で通じ合っているような関係であり、今回の共演も必然だったのだろう。 そんな彼らだけに、制作にあたっては全体的な設計図など特に決めなかったそうだが、阿吽の呼吸で進んでいったようだ。全1曲、5つのパート(パート1(トラック1)、パート2(トラック2)、パート3(トラック3)、パート3.5(トラック4)、パート4(トラック5))からなる、約74分の壮大な組曲である。wegは「長い時間の中で、緩やかな流れがあるものを作ろうという話はしてた」と言っていて、ひとつの流れに沿って緩やかなうねりが表れては消えていくような直線的な構成。両者それぞれの特性である激しい落差や急展開などは、今回は影を潜めている。全編を貫くストリングス・アレンジはweg、要所に入るバンド・サウンドはMONOによるもので、「だいたい俺がストリングス・パートを作って、その後にgotoさんがギターをのっけて。またそれを俺がアレンジして。そういう感じでやりとりしていきながら、発展させていった」という。ちなみに今回、電子音はまったく入っていない。 まずパート1〜2は、リズムレスで弦楽四重奏が重く荘厳な調べを延々と奏で、鉛色の空のような鬱屈とした音像を、たっぷり時間をかけて描いていく。パート3になってようやくMONOがフル・バンドで登場し、デリケートな演奏から徐々に高揚し、次第に荒涼とした砂漠を思わせるような、重厚かつ壮絶な音世界を見せる。パート3.5での女性コーラスやピアノ、ストリングスの混沌としたアンサンブルを経て、ラストのパート4、20分にも及ぶクライマックス・パートへと至る。弦楽器隊の穏やかな調べとともにMONOの演奏がゆったりと進んでいき、次第に上昇していく。まるで暗闇に少しずつ日が差していくようなイメージだ。演奏はどんどん上っていき、やがてはやがては光に満ちあふれたような眩い世界が描き出される。そこを到達点として、この作品は終わる。
wegによると、この作品の大きなインスピレーションの源泉となったのは、アウシュヴィッツだったという。「6月頃にヨーロッパへ行った時、アウシュヴィッツを見て、その帰りにパート1のテーマを作って、そこからずっと発展させていった。別にアウシュヴィッツやホロコーストのそのものの表現じゃないんだけど、始まりっていうか、そこが一番、作品の作風に関わってる」と彼は言う。つまりはメッセージ的なものではなく、あくまでも発想の発端だったようだが、パート1〜2に漂う、暗澹、悲観、絶望、諦念などが入り交じったような極めてダークなムードは、確かにアウシュヴィッツを想起させる。ずっと鳴り続けるストリングスの重苦しく荘厳な響きも、人間の業の深さを表しているかのようだ。そして最も重要なのが、最後のパートでこれ以上はないような“希望”の音を明確に示しているところだろう。深く暗い闇の底を経てきたからこそ、そこで放つ光はあまりに強く、眩しい。「なんやかんや言いつつも、ああいう光があるような、希望っぽいものに向かっていってしまう。本質ではそこを求めている部分があるから。gotoさんも、いつかは完璧な希望の音を鳴らしたいって言ってるから」
wegの物語作家としての手腕と、MONOのいっそう研磨された演奏力とが、ひとつの意志のもとに見事に融合したのが本作だ。その果てに、“希望”という着地点を獲得したのが、本作最大の収穫ではないだろうか。双方がまたひとつネクスト・レヴェルへと踏み込んだ作品であることは間違いない。そしてこれは、国内はもとより世界的に見てもあまりに希有な、独創的で、真摯で、人間的な音の物語であると、ぼくは思っている。
(ライター/小山 守)